オバログ

日記から読んだ本や映画の感想、時事問題まで綴るブログです。弱者の戦い方、この社会がどうあるべきかも書いていきます。

『気がつけば40年間無職だった。』の感想を書いた!

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 僕はノンフィクションの本を読むのが好きです。特に、社会の周縁にいるような人たちの人生を綴ったノンフィクションを読むと、ありきたりですが「世の中には色々な人生を生きてきた人がいる」ことを再確認できます。無職でも、ひきこもりでも、犯罪者でも、ホームレスでも、その生きてきた過程は様々で、誰一人として同じ人生を歩むものはなく、「各々には各々の事情がある」ということを読書を通じて突きつけられます。

 

 自分の周りだけに目を向けると、どうしても視野が狭くなり、思い込みや決めつけにとらわれやすくなりがちですが、読書には視野をグッと広げる力、どうしても自分だけでは養えないこともある、他者への想像力を補ってくれる力があると思っています。

 

 今回紹介する『気がつけば40年間無職だった。』という本もまさにそんな一冊。タイトル通り著者は、40年間働いてくることのないまま生きてきた女性です。いじめ、不登校、ひきこもり、精神疾患と、はたから見れば彼女の人生は決して順風満帆とは言えず、本書にも綱渡りの日々が綴られています。

 

 

 

 自分の周りを見渡しても、彼女のような人生を歩んできた人はいないかもしれませんし、どんな人生を歩んで、どんな想いを抱いてきたか想像するのは難しいかもしれません。でも、この本を読めばきっと目の前に「40年間無職だった。」女性の人生が浮かび上がってくるはずです。それは、きっとこれまで目に入ってこなかった、あるいは想像してこなかった他者の人生に触れるきっかけになると思います。

無職で生きるための方法論ではないけれど‥ 

 

 人によってこの本を読む理由は様々だと思いますが、読者の方にとって特に関心があるのは、「どうやって無職で40年も生きてこられたのか?」ということだと思います。生きていくためにはお金がかかるわけで、当然の疑問です。ただ、この本は例えば「40年間働かないでこられた理由」とか「しんどい状況でも生き延びてきた考え方」のような形で、彼女がサバイブしてきた方法論を語っているものではなく、あくまで私的な物語(人生)で起こった出来事や想いについて書かれています。(障害年金の受け方みたいなのもちょっとはある)

 

 ですから、今何らかの理由で苦しい状態にいる人、それこそ、彼女と同じように家族との間に問題を抱えたり、しんどくてひきこもったり、精神疾患で生きづらさを感じたりする人が読んだとしても、パッと解決策を提示してくれたりするわけではなく、すぐに役立つ本というわけではないかなと。

 

 ただ、そうはいっても40年間無職で生きてこられたわけですよ。しかも、いじめや不登校、ひきこもりを経験し、精神疾患を抱えながらね。読んでもらうとわかりますが、なかなか壮絶で、どこかのボタンのかけ違いで、生活が破綻していたなんてことも全然ありえたわけです。でも、彼女はなんとか40歳まで生き延びてきた。著者本人は、意識してないかもしれませんが、その生活や行動自体に生きづらい日々を乗り越えるヒントや、きっかけみたいなものが転がってると思います。

 

 その具体的なエピソードはぜひ、本書を読んで確認してほしいところですが、僕が読んで思ったのは「人間関係を完全には断ち切らなかったこと」に彼女が生き延びてこれた理由があるんじゃないかと。

 

 著者は無職でひきこもりになったりするんですが,完全に部屋に閉じこもって一人っきりってわけじゃなかったんですよね。僕はひきこもりの人の本を結構読んだりしますが、完全に部屋にひきこもって人間関係を遮断しちゃう人と、普段はほとんど部屋にひきこもっているんだけど、時々、外に出て活動したり人とも関係を持つってタイプがいて、彼女は後者のタイプでした。

 

 これの何が大事かっていうと「人と繋がりやすい」ってことです。無職とかひきこもりになると、人間関係ブツっと切れちゃったりするんですよね。今の状況を言いづらいというのもあるし、お金がなくて会いにくいというのもある。で、一人で部屋で考え込んでると、マイナスなことばっかり考えちゃって、それが頭の中でグルグル回り続けて負のループになっちゃったりする。その考えがちょっと偏ってたりしても、気づきにくいんですよね。自分の考えの偏りに自分で気づくのって難易度高いです。色々なバイアスがかかったりするので。そういう時に、人と話して意見をもらったりすると、「ちょっと偏ってたかな」と気付けたりします。

 

後は、人と話すって「少なくとも目の前にいる人は、自分の存在を認めてくれている」ってことじゃないですか。これ、僕も経験あるんですが、無職になったりひきこもったりすると、「自分はこの社会に必要ないのでは?」って、自分の存在そのものを否定してしまったりすることがあるんですよね。どこにも居場所がなく思えてしまう。それで、自分を責めて自信無くなって、またそんな自分を否定しての負のループに飲み込まれてしまう。これが、非常に辛い。

 

 でも、自分の言葉を受け止めてそれに意見をくれたりする人がいるってことは、少なくとも目の前の人には否定されてはいないわけですよね。少なくとも、存在が見えなかったり、無視されているわけではない。これって、後々振り返ると、非常にありがたいことだったりするんです。僕はそうでした。会話するっていうのは言葉のキャッチボールだけじゃなくて、存在の認め合いだったんだなと。それをやることで、無意識にではあるけど、救われていたんだなと思ったりするわけです。

 

 それに会話するって色々いいことがあるんです。ちょっとした不満とか悩みを話すことで、それがガス抜きになったりもするし、相手がポンと放った何気ない一言が、「そうか!」って気づきになったり、問題解決のヒントになることもある。

 

 また、人と繋がるってことは「誰かに助けを求めやすい」ってことでもあると思います。前述したように、著者はひきこもりの経験だったり、精神疾患だったりするわけですけど、これって一人で解決するの大変じゃないですか。ひきこもりだって支援機関があるし、精神疾患に限らず病気の場合、病院があってそういうところの助けを借りてるわけですよね。むしろ、一人で全部やろうとするのはムリゲーなんですよね。

 

 その点に関してちょっとだけ、著者の具体的なエピソードを出します。著者は障害年金をもらうことになります。そのやり方をどうやって知ったのかというと、通っていた学校の先生に今後のことを相談したところ、社会福祉士を紹介してもらって、その人から障害年金をもらえる可能性があることを、教えてもらえたからなんです。ここでお金がもらえたことで、だいぶ生活が変わったことも書かれてます。

 

 これは一例に過ぎませんが、たとえ相談した人自体が具体的な解決策を提示できなくても、それを知っている人と繋がっていたりする。人と繋がるというのは、目の前にいる人だけじゃなくて、その人を通じて、間接的に相手の人間関係とも繋がることになる。そういうところから、自分の悩みや問題を解決するための、助けになってくれる人が出てくるかもしれない。

 

 そういう「人間関係を完全には断ち切らないこと」っていうのは、この本を読んでいて改めて大事だなと思いました。友達がいなければ、支援団体の人とかそういう人だけでもいいから繋がっておくと、次のきっかけとか展開みたいなものが見えてくることもあるんじゃないでしょうか。

 

まとめ

 今回は『気がつけば40年間無職だった。』という本を紹介してみました。この本を読むと様々な困難を抱える人が、どんなことに悩み辛い思いをしているのかを知るきっかけになります。また、そこには、単に自己責任だけでは済ますことのできない、この社会の様々な問題について、改めて考えるきっかけにもなるでしょう。冒頭でも述べましたが、他者への想像力というのを補ってくれる本だとも思います。

 

 著者はまだ様々な問題を抱えていて、それは一筋縄ではいきそうにもありませんし、この先も多くの困難に出会うかもしれません。ただ、この本の後書きにも書いてあるけど、彼女の人生は決して悲哀にまみれただけのものではありません。ツラい状況の中でもあれこれ動き回り、どうにか40歳まで生き延びてきました。そんな、彼女の人生を辿ることは、直接自分の生活の役に立つことはなかったとしても、何か力をもらえるのではないかと思います。

 

 興味がある方は、ぜひ本を通じて著者の人生に触れてみてください。