「何であの人たちは公園で寝ているの?」
はじめてホームレスの人たちを見た子供は、きっとこんな疑問を持つことでしょう。そしてあなたがその子の親であれば当然聞かれることでしょう。
「あの人たちにはおうちがないの?」
さて、あなたが子供からそんな風に質問をされた時に何と答えるでしょうか?なかなか難しい問題ですよね。パッと答えられる人というのは少ないかもしれません。
では、なぜパッと答えられないのでしょうか?それは「ホームレスの人たちのことを実はよく知らないから」なのだと思います。テレビの報道などでなんとなくその存在は知っているけど、実際に彼らがどういう生活をしているのかは知らない。どんな事情でどういう背景があって、ホームレスになったのか。
「知らなければ知ることから始めればいい。」
そんなわけで、今回はホームレスの問題についてわかりやすく解説をしてくれている本を紹介してみたいと思います。それがこちら。
本書は、中高生やそれを指導する教職員に向けて行われた『ホームレス問題』についての講演をまとめたものです。
書籍等でホームレスや貧困問題について語られるときには、ついつい内容がお固くなりがちだし専門的な用語も多く読みにくかったりもします。しかし本書はそもそもがホームレスについてよくわかっていない中高生や教職員に向けての講演をまとめたものです。ですからホームレスになる背景や、 貧困に陥る理由、一度ホームレスになるとなぜ抜け出しにくいのか?など僕たちがホームレスについて持つであろう疑問についてわかりやすく答えてくれています。
本書を読むことで、子供を持つ親御さんやホームレスについてよく知らない子供や大人がホームレスの問題について考えるきっかけになるでしょう。また多少なりとも持っているかもしれない偏見について見直すきっかけになるのではないかと思っています。
ホームレス襲撃は路上のいじめである
僕が特になるほどと思ったのは「ホームレス襲撃はいじめである」ということ。
筆者の北村さんは20年以上ホームレスを襲撃する子供たちをみてきました。実際にホームレスを襲撃し逮捕された少年たちと書簡を通じてやりとりをしていたそうです。そこで見えてきたのは、「加害者たちは自己肯定感がとても低い」ということでした。いじめを起こす子もホームレスを襲撃する子も「自分には価値がない」と思っている子が多かったんだそうです。
自尊感情が下がって自分を肯定できないとき、自分の価値が感じられないとき、子どもたちは生きるのがつらくなって、だれかを否定して攻撃したくなります。自分のなかにたまった自己否定の気持ちが、心の汚濁となってあふれたときに、周りを否定する形でぶつけます。
引用元:『子どもに「ホームレス」をどう伝えるか』p74 著者 生田 武志,北村 年子 太郎次郎社エディタス
確かに自分に価値を感じられないとしんどい。そのしんどさに耐えられなくなって、他者を否定する形でどうにか自分のつらい気持ちをごまかす、あるいは他人の価値を落とすことで、相対的に自分に価値があるようにする。
自分が満たされないから自分に抵抗できないクラスメイトやホームレスをいじめる。自分に価値がないと感じるから、弱いクラスメイトやホームレスをいじめることでその存在を否定し、自分に価値があるように思わせようとする。
なんか不幸の連鎖という感じがして、悲しくもなりますね。仮に加害者が自然と自己肯定感を高められる環境にいたのならどうだったのかな?と考えてしまいます。もしかしたらいじめやホームレスを襲撃するようなことも起きなかったのかもしれません。
もちろん、誰かをいじめたり襲撃することは許されることではありません。暴力をふるいけがを負わせたり、死亡させるなんてことになったらその罪を償う必要があります。ただ「なぜ、人はいじめるのか?」という視点で考えてみると、いじめ問題やホームレス襲撃の問題について単に「いじめるな!」とか「暴力をふるうな!」という決まりきったアドバイスではなく、もう一歩踏み込んだ解決策を提示できるのではないでしょうか?
誰もが自己肯定できる社会に
先ほどまでの内容を基にいじめやホームレス襲撃を防ぐための一つの考え方として「誰もが自己肯定できること」というのがとても大切なのではないかと思っています。
たとえ失敗してもいい、完璧じゃなくてもいい、うまくできなくてもいい。そうだとしても「大丈夫だぜ」と認めあえること。否定をしないこと。それが自然になれば誰もが生きているだけで自分の価値を信じられるようになるんじゃないかと。その状態になれば他者を否定する必要はないわけですから、いじめやホームレスを襲撃することもなくなるんじゃないかと思うわけです。
では、いったいどうすれば自己肯定が出来る社会になるかというと、それは大人や社会全体が変わっていくことなのではないかと思っています。
今の社会というのは「何かできないと存在価値がない」と決めつけがちです。
- 成績が良くないとだめだ
- 人とうまくコミュニケーションがとれていないとだめだ
- きちんと働けていないとだめだ
- 同性や異性から慕われないとだめだ
- 家族がいないとだめだ
- 稼げていないとだめだ
などなど挙げればキリがありませんが、何かが出来ていないと否定されてバカにされてしまいます。失敗やできないことをあまり許容してくれません。それどころから一度や二度の失敗や挫折で「自己責任だろ」と責め立てられたりもするわけです。
ホームレス状態の人を見て「あの人は怠けているからダメなんだよ。ああならないようにしなさい。」と子どもに説明をする親御さんなんかはまさにそういう考えが染みついちゃってる。ということはその教えを受けた子供は当然こう思うわけですよね。
「あのホームレスの人には価値がないんだ。」
そんでその子供が成長するにつれ、親なり社会から「何で君は出来ないんだ。そんなんじゃだめだぞ。」と言われてしまう。出来ることを認められるより出来ないことを否定されてしまう。そのせいで自己肯定感は低くなり、自分の存在価値を見失う。その時にふと「ああ、腹が立つ。あっ、そういえば、自分よりも価値がないやつらがいるじゃないか。あいつらをいじめてやろう。」と思い立つわけです。そして、いじめや襲撃という形で自分の価値を無理やり高めようとする行為に出てしまう。
こんな不幸な連鎖を生み出さないためには、まず大人から変わること。社会から変わること。子供がそして僕たち大人も「ただいるだけでも価値があるじゃん。失敗しても別にダメじゃないじゃん。次また頑張ろう。」と思えるようにすること。これが大事なのではないでしょうか?
ただ、こういうこと言うとさ「努力をして成功した人の価値を否定するのか?」とか言う人がいるんだけどそうじゃないんですよね。もちろんその人の存在自体にも価値があるし、素晴らしい。だけど、うまくいってない人とか失敗だらけの人だって存在してていいんじゃね?ってことです。
ダメなやつとか失敗したやつとか、うまくいかないやつが許容されてる社会の方が結局のところみんながみんな生きやすいし、わざわざ他人を否定しなくて済むじゃんってこと。そこを勘違いしてほしくないですね。
まとめ
というわけで、今回は『子どもに「ホームレス」をどう伝えるか』という本を読んで思った事を書いてみました。
本書にはホームレスが生まれる背景、ホームレスの襲撃といじめの関係など学びになる内容が多くあります。
- ホームレスについてほとんど知らない
- ホームレスについてきちんと人に話せるようにしたい
- いじめとホームレス襲撃にどのような関係があるのか気になる
- いじめやホームレスの襲撃を減らすにはどうしたらいいのか考えたい
こういった方にはおススメの一冊なので、興味がある方はぜひ一度ご覧になってみてください(^^)
それでは今回はこの辺で失礼します!