今回は久々の読書感想の記事になります。
思想家の東浩紀さんという方が書いた本です。
なぜこの本を読んだのかというと以前phaさんの『しないことリスト』という本の中でこの本が紹介されていたからなんですね。それで気になっていて読もう読もうと思ってなかなか読めなかったのですがつい先日ようやく読むことができました。
まず僕がこの本を読んだ率直な感想は「旅に出たくなった。」ということ。
「旅に出たくなった?っていうことは旅行記とか旅日記みたいなもの?」
そう思う人もいるかもしれません。ただこの本は単なる旅行記でもないし「旅するの楽しいよ♪旅サイコー!!」と旅をほめたたえている本でもないんです。
簡単に言えば今の時代になぜ旅が必要なのか?旅することで得られるメリットは何なのかをとてもわかりやすく教えてくれる一冊です。
今回はこの本の感想と参考になった部分を中心にお伝えしてみようと思います。
ネットはあなたの所属を固定するツールである。
まず本書の冒頭で東さんはこう述べています。
ネットは階級を固定する道具です。「階級」という言葉が強すぎるなら、あなたの「所属」と言ってもいい。世代、会社、趣味‥‥‥なんでもいいですが、ひとが所属するコミュニティの中の人間関係をより深め、固定し、そこから逃げ出せなくするメディアがネットです。
引用元:『弱いつながり 検索ワードを探す旅』東浩紀著(幻冬舎)p9
この文章を見てあなたはこんな事を思いませんでしたか?
「いやいや、ネットは階級なんて固定しないよ!!ネットっていうのは年齢も性別も肩書きも関係なく誰とでも繋がることのできる便利なツールだろ!!」
そう、その考えは間違いではありません。実際僕もネットを通じて今まで知りあわなかったであろう人たちと繋がることができました。このブログでもそうだしTwitterでもそう。
ネットというのは今まで見たことのない世界に自分を連れていってくれる素晴らしいツールであると考えられていますよね。それは間違いじゃない。実際ネットから生まれた繋がりというのも沢山あるはずです。
ただ一方で今現在あなたはネット上でこういう傾向の人たちとの繋がりが増えているのではないでしょうか?
- 何となく趣味趣向が似ている
- 何となく似たものに興味がある
- 何となく自分と同じような考えを持っている
- 自分と同じ年代、肩書きを持っている
- 何か自分と共通のものがある
本来であればネットでは自分と関係ないような人とも繋がれるはず。それなのになぜ結果として似たような人とばかり繋がってしまうのか?まずその理由から説明していきます。
似たような人とばかり繋がる理由は??
ここではまずSNSを例にだして説明をしていきます。
国内だけでもTwitterやFacebookなど多くのサービスを利用することができます。それぞれ使い方は多少違うとは思いますが、実は共通点もあるのです。それは
「あなたが登録した友達やフォローした人、趣味や共通点から別の友達やアカウントをすすめてくる」
という機能です。つまり自分で友人や知り合いを探さなくてもサービスを提供する側から
「あっ、あなたあの人と友達なんだね。あの人のことフォローしてるんだね。そしたらこの人とも知り合いなんじゃないの?」
「あっ、あなたこれに興味があるんだね。そしたらこっちにも興味があるんじゃない?」
という具合に膨大に蓄積されたデータから共通点や傾向を見つけて「あなたはこういう感じの人ですよね?」となかば決めつけられてしまうのがネットの世界なのです。だからネット上ではあまり自分とかけ離れた存在の人と繋がることは多くありません。大半が自分と似た人や似た傾向にある人と繋がることになるというわけです。(例外もあるよ)
「いやっ、俺は自分で自発的に検索しているからそんなことないぞ!!」
そう思う方もいるでしょう。ところがそうとも言い切れないのです。
仮にSNSで知り合いをつくりたいとしましょう。その場合おそらくあなたは「自分が興味のあるもの」「自分が好きなもの」といったワードを検索窓に打ち込んで検索しますよね?その結果出てくるのは自分と似たような趣味、趣向、考えの人ばかりが出てくるはず。全く自分が興味がないものや知らないことに関連したワードを打ち込むという機会はほとんどないはずです。釣りにまったく興味がない人がTwitter上で「釣り」と検索することはないですよね?
これはTwitterだろうがFacebookだろうがあるいはグーグル検索だろうが同じことです。僕もあなたも検索の際に打ち込むキーワードというのは趣味趣向、考え方や年齢、肩書きなどである程度パターン化されているわけです。だから結果として似た人とばかり繋がってしまう。
そんなことないと思うのなら、普段あなたがグーグルでどんなワードを使って検索しているか思い返してみてください。色々なワードを打ち込んでいるようで実はそんなに多くのワードを使っていないことに気づくでしょう。
このようにサービスの提供側(FacebookやTwitterなどAmazonなど)からのすすめであろうが、自発的に検索をしようがネットの世界で自分が見聞きしたり繋がったりするものはある程度パターンが決まっています。
そして今は検索エンジンやアマゾンなどのサービスを提供する側のマシンの性能が上がり、予測の精度がどんどんと上がっているのは皆さんもご存知のはず。そのうちネット上ではさらに世界が細分化され固定化されていくでしょう。まぁビッグデータがうんたらかんたらとかそういう話です。
これまでの話でなんとなくネット上で「階級(所属)が固定されていく」というのがどんどん進んでいるのがおわかりいただけたはず。
ちなみに東さんはこのように自分と共通の趣味、趣向、考えなどがとても似通った繋がりのことを「強い絆」とおっしゃっています。
ただこの強い絆が無駄だと言っているわけではありません。むしろ強い絆は人生を充実させるために必要です。自分の好きなこと、自分の興味があることを突き詰める、自分と似た考えや趣味趣向を持つ人との関係を深めていくことは間違いなくあなたの人生を充実させてくれるでしょう。
ただその一方で強い絆ばかりの世界になってしまったらどうでしょうか?自分の好きなものや興味のあるもの、また共通の考えや趣味を持つ人との繋がりばかりが強まってしまったら?
それではとても狭い視野の中で人生を生きることになるのは明らかです。自分が知らないもの、合わないもの、興味のないものには一切目もくれないということですからね。毎回同じワードでグーグル検索をしているようなものです。それじゃ世界は広がりません。
ではあなたの人生をより充実させるためにはどうすればいいのでしょうか?東さんはそのためには「弱い絆も必要だ。」とおっしゃっています。
弱い絆を見つけるには?
そもそも弱い絆とは何でしょうか?それは強い絆とは反対に世代、会社、趣味などが固定されていない繋がりの事です。
では弱い絆を見つけるにはいったいどうすればいいのでしょうか?東さんは弱い絆の見つけ方を次のように語っています。
では僕たちはどこで弱い絆を、偶然の出会いを見つけるべきなのか。
それこそがリアルです。
身体の移動であり、旅なのです。
引用元:『弱いつながり 検索ワードを探す旅』東浩紀著(幻冬舎)p17~18
ネットの世界は強い絆で結びついた世界が出来上がりつつあるということは既にお伝えしました。そしてそれはこれからますます強くなる可能性がある。GoogleでもAmazonでもTwitterでもFacebookでも僕らの趣味嗜好や、共通点から先回りしてありとあらゆるものを予測してきます。
「あなたはこういう人でこういう考えでこういうものに興味を持っている人だよね。」
と常に語り掛けられている状態です。
そこから抜け出すにはリアルの場に活路を求めるしかありません。ただしリアルの場と言っても親しい友人や家族との繋がりに頼れというのとは違います。なぜなら友人や家族も「あなたはこういう人間だよね?こういうのが好きだよね?」ということを知っているからです。あなたの検索ワードを予測してくるわけですね。それでは世界は広がらないのです。
そうではなくて場所を変え、環境を変えることで自分が知らないこと、自分が元々興味のなかったことに触れてみるのです。あるいは自分とは全く趣味も考えも違う人と出会うこと。それが弱い絆を見つけるということです。そのための手段として旅をするのがいいというのが東さんの考えなのです。
この考えは僕の中でとてもしっくりきました。なぜなら僕自身も旅をして弱い絆との出会いが自分の世界を広げてくれた経験をしているからです。ここで本のちょこっとだけ僕の話をさせてください。
京都への一人旅
数年前に僕は京都へ一人旅に行きました。有名なお寺や観光スポットを周りさすがに疲れたのでお茶屋さんの前で一休みしていた時のことです。突然誰かから声をかけられました。
パッと顔を上げるとそこにいたのは海外の方。まぁ京都は観光スポットだし海外の方に遭遇することも珍しくありません。
どうやらその方は京都駅の方に行きたいらしく「ここからどうやって京都駅に行けばいいのか?」というニュアンスのことを僕に英語で話しかけてきます。
ところが僕の英語力は残念無念なレベル。さらにふだん海外の方に道を聞かれるということもないため、テンパってしまいうまく答えることができませんでした。まずその場所から駅に向かうには坂道を下らなければならなかったのですが、英語で「坂道を下る」という言葉が全く出てこなかったのです。
そんなわけで言葉が出てこずテンパる僕と少しの間やり取りをしたその方は僕から道を聞くのを諦め「thank you♪」という言葉を言い残しその場から去っていきました。やや残念そうな表情をしていたのは今でも印象に残っています。
せっかく僕を頼ってくれたのにうまく答えることができなかった。そのことに僕は申し訳なさを感じました。申し訳ないなと感じたので次は答えられるようにしようと思いました。そして「その場所から京都駅までの行きかた」を検索したわけです。そして坂道をくだってくださいという英語も検索をしました。確かPlease go down the slopeだったと思います。slopeという単語が全然出てこなかった‥‥‥。
こう見ると僕の英語力のなさが露呈しただけの悲しいエピソードかもしれません。ところがこんなしょうもない話からも旅が与えてくれた弱い絆の恩恵に気づくことができます。
先ほども書いたように僕は京都で海外からの観光客に英語で京都駅までの道を訪ねられるという経験をしました。その観光客の方とはおそらくこの先一生出会わないでしょう。まさに「ものすごーく弱い絆」でつながった人です。
その人に道をきちんと教えられなかったという経験から「自分は坂道を下るという英語すらいざとなると出てこないんだな。」とか「じゃあ、ここから京都駅までどういう道順でいけばいいのだろうか?」という普段の僕であれば絶対に考えたりしないようなことを考えたわけです。
もちろんこの出来事が僕の人生に何か大きなきっかけを与えたわけではありません。僕という人間を大きく変えてくれたわけでもありません。でもほんの少しではあるけど、僕の世界を確実に広げてくれました。今までとは違うことを経験させてくれました。そしてこの出来事も含めた京都の一人旅はかけがえのない経験として僕の中に刻まれています。
このように旅に出て弱い絆を見つけることはあなたを思いがけない世界へと連れていってくれるかもしれません。視野を広げてくれるきっかけになるかもしれないのです。そういうささいな出来事の積み重ねがあなたの人生をより充実させてくれるのではないでしょうか?
まとめ
今回は東浩紀さんの『弱いつながり 検索ワードを探す旅』を読んでみました。
長い人生。時には行き詰ることもある、うまくいかないこともあるでしょう。そんな時には新しい出会い、新しい考えに出会うために旅に出てみるといい。世界を閉じず、ちょっと出かけるだけでもいい。もしかしたらその旅があなたの人生を思わぬところに連れていってくれるかもしれません。
そうだ、旅に出よう。
それでは今回はこの辺で。
最後までご覧いただきありがとうございました。
次回もよろしくお願いいたします。