突然ですが『ヒルカラナンデス』という番組をご存知でしょうか?ラッパーのダースレイダーさん(以下、ダースさん)と、お笑い芸人のプチ鹿島(以下、鹿島さん)さんが時事問題について語るYouTube番組です。
ダースレイダーxプチ鹿島 #ヒルカラナンデス 第1回 - YouTube
ダースさんは東大に入学し(中退)、社会学者である宮台真司さんのゼミで学んだり、他にも社会問題をはじめ様々なテーマを扱う深掘りtvにも参加。一方鹿島さんは、なんと新聞14紙を買って購読し、時事芸人として活動中。
そんな経歴もあってかお二人とも博学であり知識量も豊富。さらにラッパーとお笑い芸人という言葉を武器としている人たちならではの語り口で、時事問題を時に真面目に時におかしく語っています。『ヒルカラナンデス』僕はとても好きなので、まだ見たことない人は是非みてほしいです。
で、今回紹介するのはそのダースさんが書かれた『武器としてのヒップホップ』という本なんですが、これが個人的にすごく良かったのでここで紹介しようと思います!
ラッパーはこの社会をどう見て、どう生きているのか?
この本のタイトルを見た方は、もしかしたらこんなことを思うかもしれません。
「えっ、ヒップホップ?興味ないんですけど…」
確かにこの本には、ヒップホップにまつわる話がたくさん登場しますし、その歴史についても語られています。僕としてはそういうものも学べるので、それはそれでとても楽しく読めたのですが、そこはこの本のメインディッシュではありません。著者のダースさんははじめにの部分でこう語っています。
僕は世界を、社会を知るための武器としてのヒップホップを提案したい。
参考:『武器としてのヒップホップ』ダースレイダー、幻冬舎
「ヒップホップで社会を知る?どういうこと?ヒップホップって音楽じゃないの?」
と思う人がいてもおかしくはありません。ですが、この本を読んでいくとその疑問は解消されていきます。ヒップホップの歴史、それを構成するDJ、ビート、リズム、MCといったものが、社会とリンクしていく。ラッパーは(正確にはダースさんは)こうやって社会を見てるのか、こういう感覚で社会を生きているのかということを学ぶことができるんです。はたしてこれが正解かどうかなんていうのは関係なく、その視点、発想が面白い。そして、これからの社会を生きる上で参考になる部分が多々あるなというのが、僕がこの本を読んだ率直な感想でした。
特に今の社会はコロナ禍ということもあり、閉塞感に包まれているように感じます。そんな時にこのダースさんの視点、考え方は、何かこう閉塞感で窒息しそう、息苦しいなと感じているような人たちにとって、酸素ボンベのような役割を果たしてくれるのではないかと思います。ラッパーとかヒップホップとかに脊髄反射的に拒否反応を示すのではなく、お試しでもいいので読んでみてほしいなぁと思います。
全ては流れであるという考え方
さすがに、この本の内容を全て紹介するわけにはいかないので、その中で一つ特に頷けた部分について書いていこうと思います。
全ては「流れ=(フロウ)である」
万物全ては流れていて留まることはない。
ダースさんはこうおっしゃいます。全てのものは流れている。止まっているように見えても、同じ状態であることはないわけです。逆にいうと、流れを拒否し、止まり続けようとするとするのは不自然と考えられます。
一つ例を挙げてみましょう。金は天下の回り物という言葉があります。これは簡単に言えば「お金は一つの場所にとどまらず、世の中を回るもの」ということです。企業が得た利益は社員に分配され、社員は給料を得て衣食住など必要なものを購入する。すると、別の企業が利益を得て…という形で、お金は世の中をグルグルと回っています。
ですが、この流れを止めてしまったらどうでしょうか?ある企業が利益を自分の懐に溜め込み、従業員に還元しない。その企業はブクブクと肥えていくかもしれませんが、従業員はカツカツなので消費を控えるでしょう。すると、別の企業の利益は減り…と、今度は負のスパイラルが発生するわけですね。どこかで流れを止める、溜め込むと結果として全体が割を食うわけです。
そして、この流れに関しては個人にも当てはまることが多いと思います。ダースさんもこの本に書いていますが、人は生まれてから毎秒少しずつ変化しています。体内では血液が流れていて、日々代謝が行われている。高熱が出れば汗を流すことで上がった体温を下げるし、腸内に便が溜まれば腸内に悪玉菌が増えたり、体調不良を起こすなんてことも言われています。
あるいは知識や経験もそうでしょう。必死に学んだ知識や経験も自分の中だけで溜め込めば、それは何ら世の中をよくしませんが、その知識や経験を誰かに伝える、流すようにしていけば、受け取った人間は新たな気づきやな学びを得て世の中にいい影響を与えていく可能性があります。まさに、この本でダースさんがしていることです。
端的に言えば流れを止めるな!っていう感じでしょうか。言葉だけ見るとすごくシンプルなんだけど、実はこの「全ては流れである」という考えは、色々なことに当てはまるんじゃないか。そしてすごく大事なことなんじゃないか。そんなことを思ったわけです。
不登校、ニート、ひきこもりに当てはめてみた
そして、僕自身は不登校や、ニート、ひきこもり的な人と親和性があるのですが、そういう人にもこの考え方は大切なんじゃないかなと。
不登校、ニート、ひきこもりの人というのは、学校に行ってなかったり、働いてなかったりするわけです。言ってしまえば社会活動を止めている状態だと。で、人によっては「自分はもうダメだ」なんてなってベッドで一日中じーっとしているなんてこともあります。全ての流れを止めちゃうんですね。これ、僕も経験あるんですけど、そうすると停滞感とか不安感とかどんどん強くなって、自分の中で肥大していくんですよね。ネガティブな考えにどんどん支配されていく。水の流れを止めると澱むように、ネガティブな思考も留め続けると澱む。これも流れを止める弊害だなぁとこの本を読んでいてふと思ったわけです。
で、この解決策としてはたとえ社会活動を止めたとしても、個人の活動までは止めないっていうのが大切なんじゃないかなと。学校行ってなくても、働いてなくても、考えることは止めない、体を動かすのは止めない、手を止めない、学ぶのは止めない。もちろん、人によって体調の問題などもあるとは思うので、できる範囲でいいので流していく、動かしていく。
今は何も考えたくないって人は、散歩してみるといいかもしれません。体を動かすことで、意識を思考から身体活動に流していく。
悩んだ時も、自分の中で溜め込むのではなく、相談することで他人に流すなんてことをやってみる。しんどい悩みも誰かに話すだけで、少し気持ちが軽くなるなんてこともあります。
ちょっとしんどい時には「流れを止めてないか?」と自分に問いかけてみると、もしかしたら打開策が見つかるかもしれません。
まとめ
今回はダースレイダーさんの著書『武器としてのヒップホップ』を紹介してみました。今回紹介したのは本書のほんの一部です。他にも、本書にはヒップホップを通じたダースさんのユニークな視点や考えが豊富に盛り込まれています。僕のようにヒップホップにそこまで詳しくないような人間であっても、とても面白く、ハッとする気づきのある内容になっています。
すぐに役に立つ系の本ではないかもしれませんが、日々の生活に停滞感を抱いたり、行き詰まりを感じた時、ふと読み返したくなる、そんな一冊だと思います。興味がある方は是非一度読んでみてください!
参考
『武器としてのヒップホップ』ダースレイダー、幻冬舎、2021年12月