オバログ

日記から読んだ本や映画の感想、時事問題まで綴るブログです。弱者の戦い方、この社会がどうあるべきかも書いていきます。

『貧困と地域』あいりん地区の歴史と今抱える問題点をわかりやすく解説してくれる一冊です!!

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ここ最近、久々に会った知人や友人に大阪に行った時の話ばかりをしています。というのも、大阪の西成という場所があまりにも自分にとって印象的な場所で、どうにも話したくて話してくて仕方がないという衝動に駆られてしまうわけなんです。

 

「西成ほんとすげぇ。西成のこともっと知りたい」

 

まるで、意中の相手に恋焦がれる若者‥‥とまではいきませんが、一時期の僕は「西成、西成‥‥‥」とまるで念仏のように西成のことばかりを考えていました。

 

で、そんな西成熱が高まる中、西成のことを知るためにいくつか本を読む機会がありました。西成に実際に滞在し日雇い労働者として働いたライターの方のルポ、西成で野宿支援の活動をされてきた方が見たの社会的弱者の現実など、支援者の立場、労働者としての立場、新たに西成を開発しようとする人たちの立場など、どれも非常に興味深く読ませてもらいました。

 

そうして、数ある関連本を読む中で、「じゃあ西成のことを初心者でもわかりやすく理教えてくれる一冊はどれだ?」と考えた時に、パッと思いついたのが今回ご紹介する『貧困と地域』という本です。

 

著者の白波瀬さんは社会学者として活動、また2007年から2013年まで「西成市民会館」にてソーシャルワーカーとしても仕事をされてきました。

 

本書ではまず西成の中のあいりん地区(釜ヶ崎)の歴史を取り上げます。ここでまず疑問に思いません?「あいりん地区?釜ヶ崎って何よ?」って。実は一言で西成と言っても、全エリアが僕らのイメージする「日雇い労働者やホームレスが多い場所」というわけではありません。そういった場所は、あいりん地区もしくは釜ヶ崎と呼ばれている一部のエリアなんですよね。これ実は知らなかった人も多いんじゃないかな?僕も「西成全体がそういう場所なんだ」と勝手に思いこんでいました。

 

釜ヶ崎の歴史は戦前からスタートします。(戦前はまだあいりん地区とは呼ばれてなかった)戦前の釜ヶ崎はどんなところだったのか?という素朴な疑問に本書では答えてくれています。さらに戦後になり、釜ヶ崎のイメージを決定付けるような街の人たちによる暴動がおこった背景、スラム街から日雇い労働者向けのドヤ街への変貌、その後のバブル崩壊に伴う不況に端を発したホームレス問題のこと、そして野宿者の減少と引き換えに起こった生活保護受給者の増加ことなどをわかりやすく説明してくれています。

 

ここでちょこっとだけ内容に触れます。戦前の釜ヶ崎ってどういうところだったと思います?最初からカオスだったのか?それとも労働者だらけの場所だったのでしょうか?答えは否です。

 

釜ヶ崎は、もともと大阪府西成郡今宮村の小字(市町村内を細分した行政単位)で、かつては田畑が広がる農地であった。しかし、二〇世紀に入ると様相は大きく変化し、一帯は貧困層が集住する木賃宿街となった。その背景には日本一のスラムと称された名護町(現在の大阪市浪速区の日本橋界隈)のクリアランス(強制立ち退き)がある。

引用元:『貧困と地域』p2 白波瀬達也 中央公論新社

 

おもしろいっすね。元々は今の大阪市浪速区の日本橋界隈にスラム街があってそこから立ち退きがあったのが、まずそもそもの原因だと。さらに、その立ち退きによって家を失った人たちの移住先として、釜ヶ崎には木賃宿がたくさんできたんだそうです。そこからドヤ街と呼ばれるようになり、今のあいりん地区の元となる街が形成されていった‥‥‥。もし、名護町からの立ち退きとかなかったとしたら、もしかしたら僕らがイメージするあいりん地区はなかったかもしれないわけです。

 

そうしたはじまりから、途中あいりん地区と改称をし日雇い労働者の街→野宿者の街→生活保護受給者の街へと少しずつ街は形を変えていきます。なぜ、そのような変化を遂げてきたのか?変化するたびにどんな問題が起こり、どう対処をしてきたのか?その辺りのことも時代との関連も絡めて説明してくれているので、「なるほど、こういう経緯で今のあいりん地区があるんだな」とすんなり理解できるはずです。

 

そうしたわかりやすさからも、本書はあいりん地区あるいは釜ヶ崎についてちょっと興味があるという初心者向けの一冊だと思います。

 

さらにいうと、あいりん地区というのは今後ますます格差が広がり、少子高齢化がすすむ可能性が高い日本という国そのものの縮図とも言えるでしょう。日本は「課題先進国」などと言われていますが、あいりん地区はその日本の中でも、さらに拍車をかけて課題だらけの街です。その街の取り組みを検証することで、日本という国が「今後どういった道に進むのか?」を考えるヒントにもなるはずです。そうした視点から本書を読んでいくとまた違った発見もあり、おもしろく読めるのではないでしょうか。