僕が住んでいる近所には昔、DVDやCDをレンタルできるチェーン店が二つあった。その二つは学生時代よく通ったものだが、既につぶれてしまい建物もきれいさっぱりなくなって久しい。
一方、線路を挟んで逆口にはまだチェーン店が残っていたのだが、ついにその店も閉店することとなった。これで、僕の家の近所からは、DVDやCDをレンタルできる店が完全に消えた。こういう出来事があると、時の流れをひしひしと感じる。
10代~20代前半ぐらいまではそこそこの頻度でDVDやCDを借りていた。音楽番組でいいなと思ったアーティストの曲を探しにいったし、好きなバンドの新譜が出たらその日に駆けつけたりもした。DVDもCDも人気の新作だと既に借りられてしまっていて、一週間ほど待つこともあった。
お金があまりないからシリーズものの映画を毎月一本とか二本借りて、数ヵ月後ようやく最後まで見終わった時には、妙な達成感があったのを覚えている。ちなみに借りたのは13日の金曜日シリーズだったと思う。何故なのかはわからない。
そうした数々の記憶と共にあったレンタルショップが、自分の生活圏から消えることは寂しいと思う。でも、今のサプスクの便利さを考えるとそれも仕方ないよなとも思う。
サブスクなら新作が人気で全部借りられててすぐに観れないなんてことはないし、借りるのもボタンを何度かクリックすれば終わりだ。当然店舗に借りにいくことも返しに行く必要もない。返却日が雨の日で「めんどくせぇなぁ」なんて言いながら家を出る必要もない。10代の頃の僕が今の時代の様子を見たなら「家で全部すんじゃうの?なんて快適で便利なんだ!」と驚くだろう。
でも、ふと思うこともある。「今の若い人達は、友達とDVDやCDを一緒に探すあの体験をしないんだろうな」と。
一人でじっくり作品を探すのもいいが、記憶に残っているのは友達と作品を探していた時のことだ。
レンタルショップの狭い棚と棚の間で隣り合って、一緒にパッケージの裏側を眺めて「これどうかな?」「ビミョーじゃね?」なんてワイワイ言いながら作品を選ぶ。
友達に「これオススメだよ!」なんてすすめられた曲を、ショップの試聴コーナーでヘッドフォンつけて聴く。よかったらそれを自分も借りたりする。逆にいまいちしっくり来なくて「何で?いいじゃん!」とすすめられても、いやぁと首をかしげる。
流行りのアイドルのアルバムを手にとって「やっぱり○○がいいよなぁ」なんて他愛もないことを言い合う。
そうした「友達と何かを探す」ことやそれに付随するコミュニケーションや体験は、今の快適で便利な世の中からはどんどん失われている気がする。先述したように、何かを借りるにしても買うにしても今は家でほぼ完結してしまうからだ。友達とわざわざ店に行く必要もないし、商品の良し悪しも名知らないレビュアーの意見を参考にすればいい。
もちろんそれが悪いことだとは思わない。人は快適で便利なものを求めるし、実際僕もそれを享受している。テクノロジーは日々発展していて、時代は逆行しない。これからもレンタルショップはどんどん消えていくだろう。本やゲームなど他の商品を扱う店も少なくなっていると聞く。
今さら快適で便利な生活を手放そうなんてことは思わない。それは多分、これを読んでいる人達も同じだろう。
でも、僕はふと思うのだ。あの友達との時間は確かに楽しかった。快適でも便利でもないけど豊かなものだったと。
妙にノスタルジックな気持ちになってしまった。まぁ、こんな日もある。