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日記から読んだ本や映画の感想、時事問題まで綴るブログです。弱者の戦い方、この社会がどうあるべきかも書いていきます。

『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』虐げられた者たちの叫びを聞け!

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SNSや映画評論なんかでもけっこう評判がいい『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』をようやく観てきました!

 

結論から言うと良かったです!墓場鬼太郎の不気味さをベースにしつつ、犬神家のような日本の「イエ」で巻き起こるミステリーの要素もあり、水木しげる先生の作品のキモでもある「敗者や少数者の声を拾い上げる」というのもしっかり描けていたと思います。

 

ただ、残念ながらパンフレットは売り切れていて買えませんでした。トホホ。別の映画館とか探してみるかなぁ。

 

そんなこんなで、ここからはより詳細な映画の感想を語っていきます。

 

※ここからはネタバレアリです!

鬼太郎が生まれる前の物語を描くだけではなく…

鬼太郎といえば水木しげる先生の代表作のうちの一つ。アニメは1968年の第1期から現在第6期まで放送され、時代を超えて人々に愛されてきました。

 

本作『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』は鬼太郎が生まれる前の物語です。鬼太郎が墓場から生まれたことは知っている人も多いと思います。しかし、彼の誕生には多くの秘密が残されていました。

 

一つは、鬼太郎の父親が不治の病におかされていた理由です。漫画『墓場鬼太郎』では、鬼太郎が誕生したエピソードが描かれています。血液銀行に幽霊の血が混じっていて、輸血したものがまるで死人のようになってしまうという騒ぎから始まります。銀行の調査員である水木は原因を究明するため、血液を提供した者の家を訪ねていきます。そこにいたのが、鬼太郎の両親です。血液は生活に困った妻が銀行に売ったものでした。

 

鬼太郎の両親は幽霊族という種族の生き残りです。幽霊族の血を人間に輸血すると死人のようになってしまう。(この設定は映画にも活かされます。)水木が彼らの元を訪れた時、父親は全身を包帯でグルグル巻きにした姿で、彼の口から自分は不治の病で長くはもたないということが語られます。さらに、妻は子供を身ごもっていて、半年後に生まれることを水木に告げるのです。

 

そして、半年後に水木が再び彼らの元を訪れると、両親ともに事切れていました。父親の方は腐敗が酷かったため、そのままにし、水木は母親を近くの墓場に埋めます。そこから誕生したのが鬼太郎というわけです。ちなみに、目玉の親父は、腐敗し体から崩れ落ちた鬼太郎の父親の目玉が、奇跡的に生命を持った姿です。

 

僕は最初に『墓場鬼太郎』という作品を読んだ時、この父親の不治の病という設定をわりと気にもせず受け入れていました。あぁ、そういうもんか。気の毒だなぁぐらいにね。そこを今回の作品では掘り下げていったんですね。実は鬼太郎の父親は単に病におかされたわけではなく、水木が大きく関わっていたという設定を軸に物語は進んでいきます。

 

鬼太郎の父親と水木の物語は決してハッピーエンドではありません。関わった多くの人たちは不幸な目に遭ってしまいます。虐げられ利用され奪われ死んでいってしまう。本作はそうした人たちの悲壮な想いや存在を観るものに突きつけます。ただ、つらい運命に向かう中でも、誰かと助け合い次に繋ぐという、希望も描かれている。そうした点で、陰惨とした現実や絶望だけを描くわけでもなく、かといって希望に満ち満ちた非現実的なバラ色の未来を描くわけでもなく、バランスの取れた作品になっているように思うわけです。

 

さらに、本作ではもう一つの謎である「なぜ幽霊族は滅びたのか?」という謎にも触れられています。『墓場鬼太郎』では、鬼太郎の父親によってその理由が語られますが、増えていった人間たちに徐々に追いやられ、滅んでしまったことしかわからないんです。

 

ところが、この幽霊族の滅亡に人間が関わっていたことが本作では描かれています。しかも、醜悪な権力者の身勝手な思惑に、彼らの運命は大きく狂わされていくんです。詳しい部分はぜひ本作を見てほしいところですが、彼らの悲しい末路は、強者や権力者の持つ身勝手さや、必ずしも正しくないこと。そして「強者や権力者の足元には、弱い者や虐げられた者たちの苦しみや痛みが積み重なっているのかもしれない」という視点を与えてくれるはずです。

 

この辺りは、水木先生の実体験や作品ともうまくリンクしているように思います。ご存知の方も多いとは思いますが、水木先生は太平洋戦争に兵隊として参戦し、南方の島に派遣されました。命は助かりましたが、そこで左腕を失う大怪我を負ってしまいます。

 

その辺りの経緯は『総員玉砕せよ!』や『昭和史』といった水木作品で読むことができます。水木先生はそうした軍隊経験で、権力者が始めた戦争で、使い捨ての道具のようにあっけなく失われていく兵隊たちの最期を目の当たりにします。勝手な理屈で命を奪われることへの怒り。そして、理不尽な考えに左右され、命を落とさなければならなかった人たちの叫びを描かなければならない。そんな考えが水木先生にはあったのだと思います。

 

実際、『総員玉砕せよ!』で水木先生は、自分の分身である丸山二等兵という架空の人物の死に際に、こんなことを語らせています。

 

ああ みんなこんな気持ちで 死んでいったんだなあ

誰にみられることもなく

誰に語ることもできず……

ただ忘れ去られるだけ……

『総員玉砕せよ!』水木しげる、講談社文庫

 

ただ忘れさられる存在である戦死者たち。彼らの悲しみ、怒りを僕らは聞くことができません。死人に口なしです。そうした自らは語れない、やがて人々の記憶から忘れられる人たちの想いを水木先生は漫画にしてきました。

 

本作『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』でもそうした水木先生の想いはしっかり受け継がれています。

 

「彼らのことを忘れるな」

 

そんなメッセージを僕達に突きつけるんです。

 

まとめ

今回は『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』の感想を書いてみました。

 

既にお伝えしたように本作は、鬼太郎が誕生する前の物語を描いた作品です。しかし、単に鬼太郎が誕生するまでの物語を描くだけではなく、水木しげるという人の戦争体験やその作品で語られていることを、うまく盛り込んだ作品だと思います。

 

単に勧善懲悪でスッキリとはいかない人生の悲哀や理不尽さ。その中で、虐げられ失われていった人たちの人生。それを語り継ぎ忘れないこと。また、強者や権力者が抱える身勝手さなど、実に多くのことを考えさせてくれる作品です。

 

まぁ、できれば水木先生のことをある程度知っていた方が、この作品はより楽しめるかなぁ。もし知らない方は、先述した『総員玉砕せよ!』や『昭和史』なんかで、水木先生の人生を辿ってみてください。ちなみに、水木先生の人生は幼少期からぶっ飛んでて、下手なフィクションよりも面白いですよ。

 

参考書籍、サイト

 

 

 

映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』公式サイト