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日記から読んだ本や映画の感想、時事問題まで綴るブログです。弱者の戦い方、この社会がどうあるべきかも書いていきます。

『世界少子化考 子供が増えれば幸せなのか』各国の少子化対策と課題を比較できる一冊

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随分前から少子化が問題であると言われてきました。少子化によって生まれてくる子供の数が減れば、単純に労働力は不足します。また、人口減少が加速していけば、これまでの人口数、あるいは人口が増えていくことを前提に考えられていた様々な制度の見直しが必要になり、インフラを維持していくことも厳しくなるでしょう。国を維持していくという点で考えると、確かにこれは解決しなければならない喫緊の問題と言えます。

 

ですが、これは日本に限った話ではありません。多くの先進国でも少子化に頭を悩ませており、各国がさまざまな対策を打ち出して、どうにか子供の数を増やすように努力しています。

 

では、具体的に日本以外の国ではどういった少子化対策を行っているのでしょうか?そこで参考になるのが今回ご紹介する『世界少子化考 子供が増えれば幸せなのか』という本です。この本では7カ国を取り上げ各国の少子化事情や、具体的な対策方法、そのメリットデメリット、そこに暮らす人たちの生の声を知ることができます。

 

7カ国の少子化事情や対策を比較

本書では韓国、中国、フランス、イスラエル、米国、ハンガリー、フィンランドの7カ国それぞれの少子化事情や対策を知ることができます。もちろん、各国それぞれ事情は異なりますし、国や国民が少子化についてどう考えているか、その対策方法も様々です。なので、それをそっくりそのまま日本に当てはめることはできないのかなと思います。

 

ただ、その一方で「外国と日本は違うのだから参考にならない」と一蹴するのも違うと思います。例え国ごとの違いはあろうとも、少子化に至るには共通の部分もあるでしょう。そして、どこかの国がその課題についてアプローチして、一定の成果を挙げたならばそれは自国でも採用を検討する価値はあると思うわけです。

 

いいものは真似したり取り入れてみる。そこは個人でも国でも変わらないのではないでしょうか。

 

将来の不安を取り除け!

各国の少子化対策は様々ですが、この本を読んで共通している部分があるなと思いました。それは、「どの国の若者も将来に大きな不安を抱えている」ということです。この将来不安を取り除くとまではいかなくても、子供を育てようと思えるぐらいに小さくしなければ子供は増えていかないでしょう。

 

今の社会は不安定だと言われています。会社の寿命は短くなる一方ですし、一つの仕事がずっと残っている保証もありません。都市の人口は増えますが、その分地域のコミュニティは縮小、消滅し、多くの人は自分がどこかに所属することで得られる安心感も得ることができません。こうした不安定な社会において、個人が不安を抱きやすくなるのは仕方がありません。不安になりやすい社会なんですね。

 

さらに、各国の事情も加わってきます。例えばこの本でも紹介されている韓国。韓国の合計特殊出生率は日本を大きく下回ります。

 

2021年の合計特殊出生率は世界最低水準の0.81を記録し、日本の1.34を大きく下回っている。

出典:『世界少子化考 子供が増えれば幸せなのか』毎日新聞取材班、毎日新聞出版、p018

 

日本も出生率の低さが問題となっていますが、韓国は出生率が1を切っているんですよね。この原因は若者が結婚しないことと、結婚しても晩婚であることが大きな要因だそうです。では、なぜ結婚しない若者の増加や晩婚化が進んでいるのでしょうか。ざっくりその理由を挙げてみます。

 

  • 兵役による就職時期の遅れ(20代半ばになる)
  • 住居費負担(結婚したら男が家を準備しなければならないという慣習、賃貸でも多額の保証金が必要。)
  • 女性に対する家族のプレッシャー(結婚すると子供を期待される。仕事をしながら、あるいは中断して子育てをするリスクから結婚を避ける)
  • 経済面の負担
  • 子育ての前提に結婚があるため、結婚したくない人、あるいは結婚できない人は子供を持ちにくい

 

パッと羅列しただけでもしんどいなぁというのがわかりますが、特に分かりやすいのはやはり経済面の負担の大きさでしょうか。

 

大企業が賃金を含め条件的に優れているのは、どこの国でもある程度同じでしょうが、韓国の場合その大企業の割合が0.09%ととても少ないんですね。(日本は0.39%)その数少ない大企業に入るためには、名門大学への進学が最低限の条件です。そして、名門大学に入るためには、受験を勝ち抜かなければならず、そのために塾や家庭教師などの教育費もかかります。ちなみに、どのぐらい教育費がかかるのか。本書からその一例を引用してみます。

 

ソウルに住む趙信愛さん(51)は21年、長男が大学に進学した。前年は受験生だった長男だけで月に300万ウォン(約29万円)、高校1年生だった次男の分も合わせると私教育費だけで月に400万ウォン程度はかかったという。夫の給料のほとんどを投入せざるを得ず、老後の蓄えどころではないという。

 

1人でも月に30万近くで、2人で40万ですよ。教育費だけでね。それでも、ここで紹介されている人はまだそのお金を出せるだけまだ恵まれています。で、仮に大学受験に受かっても、今度は大企業に入るために資格をいくつも取る必要があり、そのためにまた塾に入ったり留学をする。さらに、結婚するためには家を用意しなければならない。競争に次ぐ競争、負担に次ぐ負担。

 

おそらく、多くの人はこの競争で敗者となるでしょう。あるいは競争すらできないかもしれない。で、仮に勝者になったとしてもじゃあ、その人たちが子供を作ろうって思えるかというと難しいんではないかと。なぜなら、普通に考えると「果たして自分の親と同じように自分の子供をサポートできるだろうか」って不安になると思うんですよ。子供は少なからず親の苦労を横目で見てきているわけじゃないですか。うわぁ、めっちゃ子供のためにお金使ってるじゃんってわかりますよね。生活費削ってるなとか、自分の娯楽に全然お金使ってないじゃんとか。

 

で、こうした不安って大企業でよっぽど上に行かなければ払拭できないんじゃないかな。で、その席だって限られてるわけです。となると、結婚は無理だなとか、子供は持ててもせいぜい1人までかなとか、あるいは子供は持てないなと思うのも自然だと思うんです。そうなると、出生率は下がる一方になっちゃいますよね。

 

まぁ、韓国の場合はちょっと極端かもしれませんが、この本で紹介されている他の国も、大なり小なり将来の不安が子供を産まない一つの要因になってます。逆に、そうした不安を軽減できている国は出生率を上げられています。政治家の人とか「結婚しなかったり、子供産まないのけしからん」みたいな根性論を言う前に、こういう現実をきちんとみるべきだと思います。若い人はかなり不安な日々を過ごしてるわけです。

 

終わりに

そんなわけで少し長くなりましたが、今回は『世界少子化考 子供が増えれば幸せなのか』の内容と僕なりの考えを紹介してみました。

 

今回はわかりやすいかなと思ったので、将来の不安と少子化についてを取り上げました。ただ、それ以外にも多様な価値観が子供を作る優先度を下げている可能性や、伝統的な家族観に縛られないアプローチで子供を作ることを推奨する国の対策など、本書を読むと少子化についてより幅広い視点でものを見ることができるようになると思います。

 

また、タイトルにもあるように「子供が増えれば幸せなのか」を考える上でも、本書は参考になります。国家としては「子供を産む」ことを推奨する方に行きがちですが、個々人では「子供を持ちたいと思わない」「子供を持つことが幸せだと思わない」という人もいるわけです。じゃあ、そういう多様な価値観を持つ人たちが暮らす中で、その人たちも含めてどうすれば幸せだと思える国にできるのか。自分達の政府はそういう人たちに対して、どういう対応をしているのか。それに対して自分はどう思うのか。そんなことを考えるきっかけにもなるはずです。

 

本書は、内容もコンパクトにまとまっていて読みやすくもあるので、そうした面でもおすすめです。興味がある方はぜひ一度読んでみてください。