薬物ってなんかすげぇ怖いイメージあるじゃないですか?実際依存によってどん底まで落ちたとか、俳人になったみたいな話を聞いたりもするし、テレビを見ればこれでもかというぐらい薬物依存症の恐ろしさを報道していたりしますよね?
もちろん、薬物に対して恐ろしいって思うことばすごく大事だと思うんですよ。薬物には近づいてはいけない、薬物をやってはいけないってことを日ごろから頭に入れておくことは被害を防ぐことにつながりますよね。
ただ、その一方で僕も含めてみんながどれぐらい薬物や薬物依存症について知っているのかが疑問に思ったんですよね。何となくテレビや新聞やネットの情報から薬物に対してのイメージを持ってしまっているんじゃないかと。正確な知識じゃなくて「よくはわからないけど、薬物は犯罪だから使っちゃだめだよね。」っていうレベルで止まってしまっているんじゃないかなと。
まぁ、そういうあいまいなイメージとか思い込みだけで物事について語るのはなるべくしないようにしたいっていうのが、最近の僕のテーマでもあるのでね、今回は薬物とか薬物依存症について勉強してみることにしました。で、参考にしたのがこちらの本です。
いくつか薬物関連の本を読みましたが、本書が薬物依存についての基本的な知識から、どのように回復するかのプロセス、必要な支援までわかりやすくまとまっていると思います。今回はこの『薬物依存症』という本の内容や、大事だなと思ったことを共有していきたいと思います。
薬物依存についての基本的な知識をしっかり学べる一冊
本書は三部構成になっています。
- 第Ⅰ部 「薬物」と「依存症」
- 第Ⅱ部 よりよい治療・回復支援を求めて
- 第Ⅲ部 孤立させない社会へ
第Ⅰ部では、薬物や依存症に関する基本的な知識を学ぶことができます。シンプルに「薬物って何なの?」といったことから、薬物依存症になってしまう体の仕組み、国内で実際に問題になっている薬物についてもざっくりとではありますが理解できるようになるはずです
とりあえずここを読むだけでもいいですね。こういう基礎的な知識を身につけておくと「なるほど、薬物依存症ってそういう病気なんだな」ということを頭に入れておく。するとよくありがちな無知からくる「意志が弱いからやめられないんだ」とか「薬物依存症になるやつはダメ人間だ」みたいな安易な決めつけとか偏見を防ぐことにもつながります。まずは知ろうとすること。そこから始めることが大切ですね。
ほんと、意志だけの問題じゃないっすよ。薬物依存症は。そんな単純な話じゃないし、「そもそも人はなぜ薬物を使ってしまうのか?」ってことを知るとね、薬物依存症の人を見る目も変わるのではないかなと思います。
次に第Ⅱ部について。ここでは治療や回復について様々な観点から述べられています。依存症になったら治療を受けなければならないし、回復をさせていかなければならない。でないと、依存症の人というのは再び薬物に手を染めてしまう恐れがありますからここは非常に大事なところだと思います。
まずここでは、著者の松本先生が薬物依存症の人を刑務所に入れることの意味について問うています。
世の中には、薬物犯罪を犯した人に対して「とりあえず刑務所にでもぶちこんでおけばいい」というやや過激な主張をする人がいます。もちろん、違法薬物を使うのは犯罪なわけですから、逮捕されて実刑が確定したなら刑務所に入らなければなりません。ただ、「薬物依存症を治療するという点から見ると刑務所での治療プログラムにはあまり意味がないよね」というのが松本先生の見解なんですね。
実際、アメリカの研究では刑務所内で治療プログラムを受けたとしても、出所後三年以内に約七八パーセントもの人が再逮捕されたんだそうです。
事実、米国でのある研究によれば、薬物関連犯罪で州立刑務所に服役した人は、たとえ刑務所内でプログラムに参加していたとしても、、出所後三年以内におよそ七十八パーセントが再び逮捕されていたのに対し、出所後に地域のプログラムに継続して参加した人の、処遇終了後三年以内の再犯率は二十一パーセントであったといいます。
引用元:松本俊彦『薬物依存症』p115、筑摩書房
その一方で、↑の文章にもあるように刑務所外のプログラムに参加した人の場合、再犯率は大幅に低下するという事実があるわけです。
では、刑務所内でのプログラムに意味がないのかというと、必ずしもそんなことはないんですね。ここで問題なのは「薬物を絶対に使えない環境にある」と松本先生はおっしゃいます。
「えっ?薬物を使えないことの何が悪いの?」
そう思いません?薬物依存症の人は、薬物が使える環境にあったらまた使ってしまう。だから、薬物に手が届かない環境に身を置くことが正解だ。そう思いますよね?しかし、この刑務所ならではの環境が薬物依存症の人にとってはデメリットになってしまうようです。
どれほど重症な薬物依存症の人でも絶対に薬物を使えない環境では不思議と諦めがつき、薬物に対する欲求を感じなくなります。そのような安全な環境に長い期間いると、自分がかつて苦しんでいた薬物の欲求を忘れてしまい、治療プログラムに参加しても、いまひとつ切迫感がなく、身が入りません。そして、刑務所を出所する頃には、「もう完全に治った。目の前に覚せい剤のパケを差し出されても、決して動じることはないだろう」という気持ちになってしまうのです。
引用元:松本俊彦『薬物依存症』p116
結局薬物依存症は治っていないのに、治ったような気になってしまう。だから、刑務所内で治療プログラムをやっても「いやぁ、自分はもう大丈夫だしな」と真剣に取り組まない。となると、結局のところ依存症はよくなっていないわけだから、出所して簡単に薬物が手に入るような環境に身を置くと、その誘惑に負けてしまうというわけです。
他にも刑務所に入ることで
- 出所を早めたいがために「もう薬物は使いません」と嘘をつくようになり、出所後もし薬物がやりたくなっても、素直にそのことをいえず治療プログラムがうまくいかなくなる
- 刑務所に入れられることで、社会的に孤立し出所後も頼れる人や場所がないため、薬物に走ってしまう
といった弊害があるとのことです。うーん、これじゃあ単に刑務所に依存症の人を入れたとしてもあんまり意味がないような気がしますね………。
では、いったいどのように依存症の人を治療していくべきなのか?基本的には「刑務所ではなく社会の中で治療を行っていく」ことが大事になってきます。
本書では通院による治療、自助グループの活用などが有効であることが述べられています。ここで具体的な内容にまでは踏み込みませんが、読み進めていくと刑務所内での治療よりも社会の中で治療および回復を目指した方がいい効果を期待できそうです。
第Ⅲ部は孤立させない社会についてです。
結局のところ人は孤立に弱いのです。孤立をするとやはり辛いし、何かに頼りたくなります。だけど、薬物依存症で刑務所に入ったような人の場合、それまでに築いた人間関係はほとんど断ち切られてしまっています。家族ですら会えなくなるなんてこともあるかもしれない。おそらく仕事だってない人も多いでしょう。となると、その人には辛い時に頼れる人や場所がないということになります。すると、どうなるか?場合によっては再び薬物に頼ってしまうわけです。(全員じゃないですよ)
僕たちの社会は薬物を使った人に対してとても厳しいですよね。まず、刑務所に隔離をするし、報道も含めて「薬物を使用するなんてふざけるな!」と使用者を責め立てて排除しようとします。でも、それは結果として薬物依存症の人にとっては、マイナスでしかない。彼らを孤立に追い込めば追い込むほど、再び薬物に頼ってしまう可能性が高まるからです。
では、一体どうしたらいいのか?孤立の反対は何でしょうか?それはつながりですね。松本先生も排除するのではなくつながりを作ることが必要だとおっしゃっています。
既に欧米では、依存症や酒や薬物におぼれたような状態の人たちは「孤立の病」であるとしていて、そのためにそうした人たちを孤立させないことを目標に様々な施策を行い一定の成功を収めているようです。
翻って日本はどうか?まだまだ、僕らの意識も、報道も、社会のシステム自体も依存症の人たちを排除したり、孤立に追い込む方に向いている気がしませんか?そういう点で、まだまだ日本は遅れているんだなと思いました。
この孤立させないってことは、それこそ医者とか専門家じゃない僕らにだってできることですからね。いきなりできることは思いつかないかもしれないけど、「排除は依存症の人にも社会にとってもマイナスなんだ」ということを覚えておくだけでも、依存症の人たちが回復しやすい社会になっていく後押しになるのではないでしょうか?
この本を読んでほしい人
ここではこの本を読んだら役に立ちそうな人や、少なくとも損はしなそうな人をあげていきます。
- 薬物依存症に興味がある
- 薬物に限らず依存症について興味がある
- 薬物依存症の人が身近にいる
- 薬物依存症の支援活動をしている
- 薬物依存症について少なからず誤解や思い込みがあると思っている
- 薬物依存症を予防するためにはどうしたらいいのかを知りたい
まぁ、言わずもがな基本的には薬物依存について興味があったり、関わりがある人に役立つ本だと思います。ただ、僕のように今のところそうではなくても「薬物依存症について知りたい」という人であれば、家に置いていて損はない一冊です。
まとめ
というわけで、今回は松本俊彦先生の『薬物依存』について、ざっくりとその内容や読んだ感想を書いてみました。
まだこの本の一部しか紹介していませんが、それでも薬物依存症に関して大事なことは知ってもらえたのではないかと思います。さらに薬物依存症について知りたい方はぜひ一度本書を読んでみてください。