シェアハウスでメンタルの調子を崩してからは、病院で処方された薬を飲みながら、朝起きてすぐの深呼吸やストレッチ、ひたすら散歩をしながら体調を整えていた。
それらに加えて自分の精神を落ち着かせてくれていたのが料理である。普段ほとんど料理をしない生活を送っていたのだけど、シェアハウス生活では自炊をしなければ財布からあっという間にお金が消えてしまうため、ほぼ毎日料理をした。まぁ、料理といっても料理名がつくようなものではなく、食材を刻み、醤油や塩、めんつゆなどで適当に味付けをし、煮る、焼く、レンジでチンするぐらいのものだ。
シェアハウスで作った豚キムチ丼。肉や野菜を雑に切りキムチと混ぜて炒めただけ。味は可もなく不可もなく
僕は料理が好きなわけでもないし、得意なわけでもない。ただ、料理をしていてふと気付いたのが「料理してるとなんか落ちつくんだよな」ということだった。
朝起きてなんとなく気分が悪い時も、飯だけは食おうと思って台所に入る。冷蔵庫にある買い置きしておいた野菜の皮を剥いて、食べられる大きさにザクザクと慣れない包丁さばきでカットする。大量に買い置きしておいた鶏肉と共に、水の入った鍋に投入しそのまま火にかける。なんて事のない作業だ。だが、この間僕の気持ちは落ち着いていた。余計な雑念が消えていたのだ。
そんなこともあって、シェアハウスではよっぽど体調が悪くなければ基本的に台所で何かしらの作業をしていた。それはシェアハウスを出る当日まで続いたのだった。
残念ながらシェアハウス生活は挫折に終わってしまったが、自分の気持ちが落ち着くという料理をするメリットを感じていたので、実家に帰ってからも料理をなるべく続けようと思って料理本を買ってみた。
あらゆる人類の中でも、トップ10%に入るであろう不器用な僕はいきなり凝った料理に挑戦したら確実に挫折することは目に見えている。だから、最初は僕のような不器用な人間でも続けられるよう、レンジでチンすれば作ることができる簡単な料理から始めることにした。物事を始める時にはなるべくハードルを下げることをオススメしたい。
玉ねぎと鳥もも肉を皿に乗せコンソメと料理酒、バターを入れてラップしてレンジでチンした。玉ねぎが柔らかく肉にもしっかり味がついてて美味かった
正直、凝った料理を作る人からすれば手間もかかってないし大したことはないだろう。だけど、僕にとってはこれぐらいからのスタートがちょうどいいし、野菜をざっくり切ったり、肉にササッと下味をつけるような作業をしている間も気持ちは落ち着いている。
作ることは精神的にいいのかもしれない
では、なぜ料理を作ると気持ちが落ち着くのだろうか?これは僕の想像でしかないので、参考程度に聞いて欲しいのだけど、まずパッと思いつくのは達成感と自信を得られるからだと思う。
肉や野菜と入った食材に手を入れ、煮たり焼いたり味付けをして皿に盛り付けると、それまでバラバラだったパーツがくっついて一つの作品が出来上がる。例えそれが不恰好な料理だとしても、目の前には確実に完成したものがあるわけだ。そうすると「自分はこれを作ったんだ」という達成感を得ることができる。
もちろんこれは料理だけに限らない。これまでの人生を思い返してほしい。きっとあなたにも何か作った経験があるだろう。それはキャンパスに描いた絵かもしれないし、あるいは音楽のような音の集合体かもしれない。何にせよ何かを作りあげると達成感につながるし、「自分にも作れた」という感覚は自信にも繋がりそれが精神にいいのではないだろうか。
もう一つ思いつくのは、作ることで物事に集中できるからというのがある。物事に集中するとなぜいいのか?それは、集中することで漠然とした不安や悩みから一時的にでも気をすらす事ができるからだ。
僕のようにメンタルに不調を抱えていたり、不安になりやすい人間の場合、「この先どうしよう」とか漠然とした不安が頭の中でグルグルと回り続け、それゆえさらに不安が増幅されていき不調に陥ってしまうことがある。
ところが何かを作るために物事に集中すると、そうした不安から意識をそらすことができるのだ。ちょっと想像してみてほしい。包丁で玉ねぎを細かく刻みながら「将来どうしよう」などと考えられるだろうか?おそらく無理なはずだ。きっと、多くの人が目の前にある玉ねぎを刻むことに集中するはずだし、その間、他のことを考えたりはしないだろう。そうやって、何らかの作業に集中している間は、余計な考えや雑念から気を逸らすことでき精神に余計な負荷をかけずに済むというわけだ。
まぁ、これらの考えはあくまで僕の推測でしかないわけだけど、今悩んでいたり、ちょっと不安を抱えている人は、ぜひ何かを作ってみて欲しい。作るものは何でもいい。僕のように簡単な料理でもいいだろうし、絵でも、プラモでも、文章でも、音楽でも、俳句でも。
初心者だからとか下手くそだからとか気にしないでいい。僕の料理もなかなか残念なレベルだけど、それでも作る事のメリットを享受できている。
何かを作る人になれば自分をちょっと助けられるかもしれない。そんな風に思っている。