自殺とうつの関係については何となく知っている人も多いでしょう。その一方で自殺とアルコールの関係について意識をしたことがある人はあまりいないかもしれません。
実際、僕も「自殺をする人はうつ病もしくはうつ状態になっているんだよな」という認識はあれど、アルコールを自殺と結びつけるという感覚はあんまりなかったんですよね。僕自身お酒は結構好きで時々飲みますし。
ところが、そんな自殺対策への認識について疑問を呈する本を読みましてね、これはぜひ紹介したいなということで今回紹介することにしたわけです。その本というのがこちら。
著者は精神科医で自殺採択に取り組まれている松本俊彦さん。本書は、タイトル通りアルコールとうつと自殺についてのデータとその関連性について記したものです。今回はこの本を読んだ感想と学んだことを書いていきたいと思います。
アルコールを甘く見てはいけない
本書はけっしてアルコールを悪者にしているわけではありません。アルコール飲料というものは、コミュニケーションツールとしても使われますし、程よいリフレッシュになるという人もいるわけです。いい距離感でアルコールと付き合えるのであればいいのだと思います。
しかし、本書ではアルコールを悪者扱いはしていないものの、国内外の様々なエビデンスや事例を紹介しながらアルコールと自殺の関連性について明らかにしています。
海外には、その根拠となるエビデンス(実証的知見)がすでに多数存在しています。たとえば、アルコール依存症に罹患する人が自殺で死亡する割合は一一~一五パーセント(Brady,2006)であり、自殺志望のリスクは一般人口の六〇~一二〇倍にもおよぶ(Murphy&Wetzel,1990)という報告があります。
引用元:『アルコールとうつ・自殺』p16 著者 松本俊彦 岩波書店
一方で本書執筆時には、日本国内における自殺とアルコールについての関連性のエビデンスは乏しいらしく、あくまで事例であったり研究結果がいくつか記されているにすぎません。本書には国内における重要な調査が二つ紹介されているので、それを引用しておきます。
一つは、東京都立墨東病院で実施した未遂者調査(飛鳥井、一九九四)です。この調査では、自殺未遂者の七五%に何らかの精神障害が認められ、その精神障害の内訳では、アルコール・薬物依存症に該当した者は一八%で、うつ病(四六%)と統合失調症(二六%)に次いで三番目に多い精神障害でした。
もう一つは、横浜市立大学附属病院救命救急センター(Yamada et al, 2007)で行われた未遂者調査です。この調査では、未遂者の八一%に何らかの精神障害が認められ、アルコール・薬物依存症の診断に該当した者は一一%と、うつ用などの気分障害(二四%)、適応障害(一八%)、統合失調症(一七%)に次いで四番目に多い精神障害でした。
引用元:『アルコールとうつ・自殺』p19
本書はほかにも、断酒会会員の人たちに自殺念慮や自殺企図の経験があるかどうか、国内外におけるアルコール消費量と自殺率の関係など様々なデータが紹介されています。
それらを見てもらうと、おそらく予想以上にアルコールと自殺は結びついているんだなということが実感できるはずです。
僕自身お酒を飲むのは嫌いじゃないし、むしろ時々ぐわっと飲みたくなる時がありますが、ちょっとお酒の付き合い方やアルコールについては考えなきゃいけないなーと思いました。
アルコールはなぜ自殺するリスクを高めてしまうのかがわかる
先述したように、様々なデータや事例から自殺とアルコールの関連が明らかになっています。しかし、ここで疑問に思う方もいるはずです。
「なんでお酒(もしくはアルコール)を飲むと自殺するリスクが高くなるの?」
単に、自殺とアルコールの関連性が高いから飲んではいけないといわれたって納得できませんよね?「いやぁ、俺毎日のように飲んでるし(笑)」みたいに思う人もいるはず。実際読者の方の中にも、日常的にアルコールを体に入れている方もいるでしょう。
そうした疑問に対して、本書では「自殺リスクを高める三つの要因」を紹介することで、いかにアルコールが自殺リスクを高めてしまうのかを具体的に説明しています。ちなみに、その三つの要因とはこちらです。
- 失職や逮捕、あるいは離婚や絶縁などによる心理社会的状況の悪化
- もともと存在する精神障害が難治化する、あるいは、新たに精神障害が誘発されるなど、精神医学的状態の悪化
- アルコールという依存性物質の直接的な薬理効果による影響
この三つの要因のうち、最初の二つは、いわば「飲酒がもたらす慢性かつ間接的な影響」であり、最後の一つは「飲酒がもたらす旧生活直接的な影響」として理解することができるでしょう。
引用元:『アルコールとうつ・自殺』p28
ここまで述べてきた、アルコールが自殺を促す三つの要因のなかで、特に重要なのは、最後の「アルコールによる直接的かつ急性の効果」です。この効果は、アルコール依存症に罹患していない、ごく健康な状態の人にも出現しうるものです。
引用元:『アルコールとうつ・自殺』p36
もちろん、三つの要因はどれも重要なのですが、本書ではその中でも特に「アルコールという依存性物質の直接的な薬理効果による影響」を重要視するべきだと述べています。
では、それは具体的にはどういった影響なのでしょうか?ざっくり説明するとアルコールによって大脳皮質という理性の部分がうまく働かなくなり、その結果として衝動的であったり、攻撃的な行動をとってしまう可能性があるというものです。
ニュースなどを見ていると、たまに「普段はそんなことないのにお酒を飲んで暴力をふるった」といった事件を取り上げていたりすることがありますよね。あれはまさにアルコールによって理性がうまく働かずに衝動的に人を殴ってしまったりするわけですね。これは衝動性や攻撃性が外に向かったパターンと言えるかもしれません。
ではこの時に、当人が借金や失業など自分だけではなかなか解決できない問題を抱え込んでいたとしたらどうでしょうか?周りに誰もおらず、一人部屋の中にいたとしたら?もしかしたら衝動性や攻撃性が自分に向かい「もう死ぬしかない」と突発的に自殺を図ってしまうかもしれないというわけです。だからアルコールは怖い。
実際、そこまで落ち込んでいなかったように見えた人が、アルコールを摂取した後に自殺を図ってそのまま・・・というケースは時々あるみたいですからね。ものすごーく落ち込んだ時にアルコールを摂取するのは踏みとどまった方がいいのかもしれない。
この本はどんな人向きか?
ここからは本書がどういう人におすすめかを簡単に書いていきます。
- 自殺対策に興味がある人
- アルコールと自殺の関連性に興味がある人
- なぜアルコールは自殺のリスクを高めるのかを知りたい人
- アルコールとの安全な付き合い方について知りたい人
これらの人が読むと役に立つのかなと思います。自殺とか自殺予防という分野について学びたい人だったり、あるいは支援者の人なんかも読んでおいて損はないでしょう。
まとめ
今回は『アルコールとうつ・自殺』という本の感想と学んだことについて書いてみました。
繰り返しになりますが、僕はアルコールを悪者扱いしたいというわけではないし、著者の松本さんもそう捉えられると不本意だと思います。大事なのは、少なからず自殺とアルコールには関連性があることを知ること、具体的にどうしてそうなるのかを知ること、実際にどうすればいいのかを知ることだと思います。
本書は80ページほどの薄いものですが、そうした知識をしっかり授けてくれる一冊だと思うので興味がある人はぜひ一度ご覧になってみてください。
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